河谷/Giton
 
を占め

踏みつけられた大きな小さな軽い靴痕は
落葉を上に纏い木質のかぼそい腕に攪乱され
裏紋様を照合することでしか脚の記憶は甦らず

紙片の中央にはおおきなくろいしみ

山椒魚のかたちの
もちろん山椒魚ではなく
いつか人口湖の建設計画を描いて塗り潰し
空想されたダムは築かれず満ちることのなかった水面に向かって

わたしたちは膝を抱え
きみとわたしは膝を抱え
日が徐々に徐々に墜ちるのを
ながめていたそうしていつまで
ながめていてもさしつかえなかった

だからわたしたちの前に谷間の家々は
鉛筆の粗雑な線の下にみすぼらしく
また幸せに放棄されてあったのだ

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