励起/竜門勇気
 

壁にぶつかる男は踵を返し
ここが部屋だと知る
三つ葉を刻み鍋に入れて
男は壁に思いを巡らす

壁はきっとやさしんだ
壁はずっとここにいるんだ
壁はしんだんだ
壁に巡らすこの気持ちは全部まちがいなんだ

指を観察する女は部屋の前
別れを懐に隠して
鍵が回るのを待っている
四年、八年、十六年

彼はきっと悲しんだ
彼はずっと此処に居るんだ
彼は死んだんだ
彼にまつわる思いは全部間違いなんだ

三十二年、六十四年
壁はほんとは意味などなくて
二人はずっと生きていて
手をつないで
その思いは永遠なんだ
この言葉は全部間違いなんだ
このままじゃ全部間違いなんだ

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