丘/Giton
 
ち、今はビルディングも坂もなくなり
駅を出れば、遠くの下のほうには渚がどこまでもつづいているばかり
潮は薄く流れ込み、また干上がり、そこには水鳥も漁(すなど)る人も見えない
ただ陽が射したり雨が降ったり、そのたびに浜は濡れ、また乾き
ぼくの立っている舗道と、その遥かな沙浜とのあいだには
もう地面さえなく、大地は無残に途切れて下が覗き見えるようなのだ
覗き見えるようだといっても、覗いて見たことはなく
透かして何かが見えるわけでもないのだが

ぼくの手には枯れた花束が握られている
根着くことなき植物体がまた芽を吹くものかどうか
知ることさえできず花束を握りぼくは丘の上に立ちつくす
なぜそうしているのかといきなり誰かに訊かれたとしても
ただこうしているのがここちよいからだと述べるほか
ぼくにはなにも答えるすべさえいまはないというのに
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