雪原の墓標/嘉野千尋
 
返せばいいのかと問うている


  跪いて口付けた雪の冷たさに震え
  すべてが思い出になる日を迎える
  あの唇が、指先が、頬が、横顔が
  侘しい寒風の音ばかりを友と選び
  ただ一つの影だけを雪原に伸ばす


  雪原の墓標よ、お前がただ独りならば
  寄り添うことを躊躇わなかっただろう
  刻まれた言葉を隠し去る雪の中にさえ
  祈りの形に組まれた両の手を差し出し
  この影が消える時まで寄り添うだろう



  雪原の墓標よ、お前がただ独りならば




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