雪原の墓標/嘉野千尋
 

  雪が白く彩るために切なさは増すのか
  薄紫の雪原に伸びる影はただ一つだけ
  記憶の奥深くにあの憧憬を閉じ込めて
  氷の枝の先に探す冬の太陽は遠く遠く
  深く俯いて一月の短い午後を見送った


  それでもふれる光があったことを
  消えてしまったその瞬間に気付く
  振り仰げば小さな星ばかりが空に
  求め続ける指先からわたしは凍え
  幸福な眠りがまだ遠いことを知る


  過ぎ去った時の中にばかり見つけ出す
  あの戻らぬ日々を幸福と呼ぶのならば
  繰り返し重ねられる秒針の音の隙間に
  抗えず取り残されてゆくわたしの影が
  何度繰り返せ
[次のページ]
戻る   Point(4)