風の問いかけ  /殿岡秀秋
 
隅田川より低い千住の街を
駆けていく幼い日のぼくの
こころの隙間に
川風がはいりこむ

湿気を含んだ重い風は
低い街並みをよぎり
川辺から離れた神社に
ぼくを連れていく

友だちは来ていなくて
何もすることもないまま
境内の隅にある
石塔を積み上げた小山に上る

木の葉を揺らす風の声
〈おまえは何をしにきたのか〉
小さな地蔵の頭をなでながら
この星に生まれた訳を知りたいとおもった

何十年振りかで街に帰った
そこだけ変わっていない
神社の石塔の小山に立つと
昔より澄んだ匂いをはらんで
風が問いかけてくる
〈おまえは何をしてきたのか〉

ぼくはコートの襟を立てる
生きた証しを
地球に残そうとしてきた
火に焼かれる野原のように
こころは熱く渇いた


境内で友と石蹴りをして
薄く汗をかいて気持よさに微笑んだ
そのときのように
こころとからだの赴くままに
動けたらいいと
風にこたえる

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