風のはじまりをあなたは知っていますか?/木屋 亞万
 
 駅前にはどこもマンションが建っているけれど、彼女が住んでいたマンションも例によって駅のすぐそばにあった。彼女が住んでいた部屋は電車からよく見えたので、電気がついていたら彼女がいるかとか、洗濯物があると仕事が休みかとか、そういうことがすぐにわかった。携帯電話がまだない時代だったので学校の行き帰りに、彼女のマンションを眺めて、寄っていくかどうかを決めた。彼女が部屋にいるときドアは開いていて、私は勝手に部屋に入っても良かった。ほとんどの場合そうだったのだが、体調が悪いときや私の相手をしたくないときには、ただ部屋に入れるだけで、彼女が横になったベッドのそばで本を読んでいても、勝手にカップラーメンを食べて
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