十円乞食/浩一
 
千円くださいと言ったら殴られるだろう
百円くださいと言ったら無視されるだろう
でも十円くださいと言ったら ひょっとして
ニコリともしないでくれる人があるかも知れない

もちろん百万円くださいと言ったら殺される
殺されたくはないのでそんなことは言わない

そういう伝で日本じゅうの大都市を巡ってゆけば
なんとか一生ぐらい食ってゆけるかも知れない
働くのがいいなんていうのは気持ち悪いくらい明るく
かつ 健康的なロシア・マルクス主義の陰謀に違いない

確かな根拠はないがそうであるに違いない
自信のかけらもないがそうであるような気がする

などとくだらない妄想にふけっていたら
いつのまにか夜の尖兵が足元まで忍び込んでいて
ヤニだらけの窓からは星ひとつも見えやしない
そして 窓のそとには大きな闇がぎっしりと詰まっていた
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