嬋娟な美女/陽向
 
夢中になっていて
ふと我に戻りベンチを見てみると
美女はもういなくなっていた


何処かへ行ってしまったか
彼は美女の坐っていたベンチに腰掛け
てかけで頬杖を突きながら
「あの嬋娟な美女ともう会うことはないんだな」
と思うと
さっきの出来事の端緒から今の自分までを思い浮かべ
憂愁の風が彼の内側から発せられた


少しの間また物思いに耽っていると
誰かの視線を感じ周りを見てみたら
あの嬋娟な美女が
さっき彼が眺めていたところから彼を見ていた


美女は彼を訝しげに見遣ると
近寄ってきて隣に坐ってもいいかと彼に尋ねた
彼は端に寄れるだけ寄ってどうぞと言った


それから二人は結婚した
彼女はただ またベンチに戻って
店で買った昼ごはんを食べようと思っていただけらしい
彼は自分を見ているのかと思って声を掛けたが
美女は誰かが坐っているくらいで見ていたのだ
彼はその事を知らずにいる
だが話は弾み打ち解け そういう結果になった
楽しく静謐な日々が二人に宿ったのだ


*フィクションです





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