革命記念日/殿岡秀秋
 
十一月六日は
ぼくの革命記念日
書類でできた
書斎の階段状の巣の
撤去を始めたのだ

たちまち
透明な羽根をつけた
兵隊蜂があらわれて
警告を発する

「近づくな」
「何年もこのままできたのだ」
「もうお前のものではない」
「おれたちの住みかだ」

ひとつひとつ書類を
確かめながら
ゴミ袋に捨てていく

紙だけではない
挟み
折り畳み傘
見つからなくて困っていたルーペ
鉛筆
ボールペンが書類の間の
つなぎ目になっていて
取り外すと巣が崩れる
お金も出てきた
十年も前のドル紙幣だ
アムステルダムの空港で
チュウリップの球根を買おうか
迷っているうちに
出発時間が来てしまった

一日かけて書斎の床がみえてきた
掃除機をかける
明日は机の上の片づけに移る

「なぜ今やるの」
息もたえだえの
透明な羽根の兵隊蜂が尋ねる

〈高望みせずに生きようとおもったら
書類の山から
生れるものがないことが
見えてきた〉

兵隊蜂は黙って消えていく
羽根の音が
耳鳴りのように残っている



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