祖母の肖像/藤原絵理子
 

白い萩の花は 秋雨にうなだれて
庭の隅には 夏蝉の死骸が朽ちて
宛名のない手紙は 燃やされる
薄い紫の煙が 竜胆の花と混ざる


黄金色の思い出に 溺れて沈んだ
綺麗なものしか 見えなくなった
醜い真実は 忘却の河に流してしまった
降りしきっているのは 冷たい秋雨 細かく


「野の花を摘んで来たの」
年老いた少女の 無邪気な瞳は 透明に
透きとおって 磨り硝子のように歌っている


一日の疲れは 葡萄酒の魂で癒される
夜の暗闇は追い払う 庭のことなど 彼女の頭から 
そうして 明日の天気だけを 気にしている

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