落手落葉/岡部淳太郎
 
膨大な自由とともに自らの使命を忘れる

この季節になると手の落としものが増える
通勤通学の途上では
手を失くした人々が淋しげに歩く
だが間違っても落ちた手を
持ち主のところに届けに行こうなどと思ってはいけない
手は落としたのではなく
置いてきたのでもなく
そこに 枯葉の下に
捨ててきたのだから
手は 人の奴隷として働かされることも泣く
ましてや手錠をかけることなどもう出来ず
秋の うらぶれた色彩を点綴しながら
ただ手として
一個の手として初めて独立する
ここで手の時は止まる
つぎの春が来るまで

道傍に 枯葉の下に
手は息を殺してうずくまっている
想像力のかたまりとなって
たまたま通りかかった人の
足首をつかむことを夢想している
落ちた葉と
なおも落ちつづける葉は手を巧妙に隠し
それは植物の優しさとして手の自由を守っている
年老いた誰かの歌
生を白く燃やすだけの意味のない旋律
それを聴きながら
夕暮れの下
手は手としての物思いにふける
さて
今夜は誰の首をしめようか

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