夜間飛行/凍月
冷たい風の音だけが聞こえる
悲しい夜の寒さだけを感じる
月に向かって飛ぶ機体は
陸に全てを置き去りにした
街の遠い灯りが見える
知らない街の時計塔を見る
左に沈んで曲線を遺し
あの青白い光を目指した
冷たい風を機体から感じる
僅かな振動の変化だけで
僕の感情は揺らいでゆく
それでも夜空は澄み切って
高度のゆるやかな上昇につれて
地上の混沌が濾過されてゆく
死ぬ時は一人、空の上
生きている今も一人、雲の上
浮かぶ黒い海を進む船に独り
冷たい風の音だけが聞こえる
空の底、大地から遥か上
完全なる孤独に浸る夜
寂しくて悲しくて
そして清々しい空で
青い月を横切る機体
空気が薄くなるにつれ
沈んでゆく悲しい夜の中
冷たい風の音さえ聞こえない
茫漠の静寂にただ独り
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