彼岸/nonya
ほどよく素っ気ない風が
袖をめくり上げたシャツを
透過していく
さらさらと粉っぽい光が
釣鐘堂の屋根を滑り
落下していく
手桶と柄杓と
線香と花と
いくばくかの懐かしさをぶら下げて
よちよち歩く
真っ赤な噴水を避けながら
躓かぬように
転ばぬように
やがて
見覚えのある御影石
石を洗い
線香と花を供え
数珠を絡ませた手を合わせる
こういう時
みんな何を思うのだろう
願いなのか報告なのか
誓いなのか謝罪なのか
まさか愚痴などではあるまい
束の間の暗闇と沈黙の底で
他愛ない想い出だけが駆け回る
御先祖様は
こんな出来損ないの子孫のことを
不憫に思ってくれるだろうか
ゆっくりと目を開けて
きまり悪そうに見上げる空には
軽やかになった肺呼吸の痕跡が
いつまでも残っていた
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