わだかマリのために/ただのみきや
 
わだかマリは美辞麗句に対する発酵した恋情を
月明りに晒された真っ赤な隠語に注射しながら
言葉が死滅した宇宙を金縛りのまま浮遊する

陽気な殺意のクラリネットが舌先を蛇のように操ると
殻も割らずに中身だけを朝焼けの海に落下させる
浮腫んだ声色と玉虫色の瞳 異端の母の呂律羅列(ろれつられつ)

検事に判事 被告に弁護士 聴衆までもが素早い
無理やり意味を着せられた無意味の意味を問う
指先に一条の見える苦と無我の思路が甘く垂れて

色褪せた口づけから蝶が咲き青くどこまでも脳に
泳ぎ続ける悪癖の足を一本ずつ捥(も)いで往く
遠ざかるはずの過去が爆風のように追い迫る

風の中で痴態を演じる蔓草に彩られた裸婦像の視線
万物の遠吠えが菌糸のように覆う自他の区別もなく
わだかマリは盲目突進を繰り返す柔らかな騎士の乳房



    《わだかマリのために:2014年9月20日》





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