墓参/MOJO
 

「あれは、だめになる寸前の蛍光灯だったんだよ」
 太一はそう言ったが、実際は、蛍光灯は劣化していなかった。それ以前にも以降にも、そんなことは起きなかった。それは太一にとって、小さな神秘体験といってもよかった。

 東名高速の渋滞は解消され、太一が運転するヴィッツは、秦野中井インターから東京方面に向かった。
 太一や叔母たちが住む街には、陽が落ちるころに着いた。アパートの部屋に戻った太一が、蛍光灯を点けると、二つある輪の大きいほうが点灯しなかった。テレビの野球中継が終わると、太一は、最寄りのセブンイレブンに、缶ビールを買いに出た。レジで支払いを済ませ、店を出ようとしてから、太一は思いなおしたように店内にもどり、蛍光灯が置かれている棚から、昼光色の三十二型を抜き取りレジに向かった。
 太一は、それが無駄になることを期待しつつ、横断歩道を渡り、部屋に戻った。

                        〈了〉

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