残らない詩のために/ただのみきや
 

黒く湿った心から無数の命が芽吹いては
――繰り返されるのだ そしてまた
ほんの一握りの詩だけが時代を越えて往く


ぼくは言葉を捏ね回し
未来の人々に届く詩を描きたいと思っている
だがそれと同じくらい自分の言葉は
消えて無くなった方が良いとも思っている
美しい言葉が善であるとは限らない
詩が慰めや愛に満ちているとは限らない
詩人やその家族が幸せであるとは限らない
詩が詩のために書かれるようになってから
詩は容易く良心の圏外へと飛び出して往った
詩を愛するとは両刃の剣を呑み込むことだ
あるいは心中
己が死と己が詩 
どちらがどちらを道連れにするのやら
だけど遺書という抜け道くらいはあって良い




     《2014年9月10日:残らない詩のために》






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