タンス/島中 充
 
タンス                  太宰を愛読した母に
               
私は息を殺して そっと 新しいタンスに耳を当てている
朝から、母がタンスから出てこないのだ
怒りの大きさに後悔がわいた

小学生の時
出来の悪い答案を丸めて、学校の帰り、道端に捨てた
「落ちていたよ」
親切に、届けてくれた友達がいた
私はタンスに逃げ込んだ
タンスの外に耳をすましていると
カチャリ、鍵の音がした
私は怒鳴った 「鬼婆ぁー」
私はタンスに閉じ込められたことを言いたいのではない
母のタンスがいつも私が隠れるほど
空っぽだったのを不意に思い出しているのだ


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