空っぽの 月/西日 茜
色の中のあなたは
とても美しく 白くて 髪はやわらかそうで
眼鏡の奥の瞳は穏やかで
ときどき 箱の中から私をふと見上げ
「愛している」と言った
早く、あなたを助け出さなければならないと
妙な正義感というか 偽善というか
まったく何かに憑かれたように叫びながら
なんとかして蓋を開ける方法を試したが
その蓋の出口や入り口がどこにも見つからなかった
七転八倒 狂喜乱舞 あなた あなた
あなたはいつも やさしく微笑んでいたのに
ついにその日が来てしまったのだ
「愛している」と言い残し
あなたは本を持ったまま
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