空っぽの 月/西日 茜
 
色の中のあなたは

とても美しく 白くて 髪はやわらかそうで

眼鏡の奥の瞳は穏やかで

ときどき 箱の中から私をふと見上げ

「愛している」と言った


早く、あなたを助け出さなければならないと

妙な正義感というか 偽善というか

まったく何かに憑かれたように叫びながら

なんとかして蓋を開ける方法を試したが

その蓋の出口や入り口がどこにも見つからなかった


七転八倒 狂喜乱舞 あなた あなた 

あなたはいつも やさしく微笑んでいたのに

ついにその日が来てしまったのだ

「愛している」と言い残し

あなたは本を持ったまま

[次のページ]
戻る   Point(5)