錆びついた歯車/まーつん
 

 自分自身ですら
 疑いの目で眺めている

 ただ、
 歴史を振り返って
 それをお手本とすることを
 やめたいのだ

 隣人を見て
 その振る舞いを
 真似るということを
 やめたいのだ

 それらの
 行いがもたらす
 かりそめの安心感が
 僕には、恐ろしく感じられ

 そして、
 この恐怖感が
 侵食する錆となって

 ギアボックスの歯車を
 一枚、また一枚と
 痛ませている

 僕は
 新しい人間に
 なりたがっている

 今までの自分を
 殺すことで

 でも、
 苦痛に価値を
 見出すというような

 感傷に
 流されたくも
 ないのだ

 僕は、
 まったく見知らぬ人間に
 問いかけ続けている

 お前は、
 何になりたいのか、と




 僕が、僕に出会うために
 その前に立ち尽くす
 鏡は恐ろしく暗く
 そこに映る人影は
 恐ろしく白い

 まるで
 生まれて初めて目にした
 満月のように













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