あの人/あかり
 

図書館にあの人がいた
いつも難しそうな分厚い本を開いて
へんてこな眼鏡をかけている あの人が

パチンコ屋にあの人がいた
今日も目押しがうまくできなくて
恥ずかしそうにコールボタンを押している あの人が

バス停にあの人がいた
おばあさんに何かを話しかけられ
惑うことなく笑顔で答えている あの人が

あの人の 名前も素性も あたしは知らない
あの人はこの町の風景に とてもよく馴染むのだ

ちょっとださめの服
ロングの缶コーヒー
時々ぼんやり空を眺めては 鼻で歌をうたってる

あたしはあの人が好きなんじゃない、と思う
あの人とこの町が繰り出すコントラストにうっとりするのだ


夕方のスーパーマーケットにあの人がいた
綺麗な女のひとと手を繋いで
幸せそうに買い物をしていた



嘘でした
あたし あの人のことが 好きだったんだ


真夜中の公園にあたしがいた
涙をたくさん流しながら
ブランコを思いっきりこいでいる 恋に破れたばかりのあたしが




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