ただの女/まーつん
 

 取り戻すことはないだろう

 かといって
 僕が隣に
 根付くことはできない
 そこは余りにも
 陽が当たりすぎるし
 お喋りする野花に囲まれ
 その賑やかさに、馴染めそうもない

 初めて
 怖い存在に出会った

 研ぎ上げた剣も
 分厚い盾も
 何の役にも立たない相手に

 それは
 怪物ではなく
 一人の女に過ぎなかった

 見詰めては
 いられない程に
 眩しく笑いかけてくる

 ただの
 女に過ぎなかった

 そして
 そんな彼女が
 思い出させたのだ


 二人の視線が交錯した
 幾つかの瞬間を通じて

 長い髪を
 朝陽に燃え立たせながら
 渡り廊下の向こうから
 歩いてくることで


 僕もまた、ただの男に
 過ぎないのだと
 いうことを




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