ノート(緑のなかへ)/木立 悟
空からたくさんの手紙をわたされ
緑のなかへ入り
迷ううちに手紙を失くし
戻ってきたときにはいつも
お礼の手紙が積まれている
迷うために迷うのではなく
たしかにどこかへ向かっていたはずだが
緑のなかへ入るたびに
どこかとは一体どこなのかを
手紙と共に失くしてしまう
お礼の手紙の山のなかには
笑っている子の顔の絵や
読むことのできない文字に混じって
雪に埋もれた野山の写真
やわらかそうな尻尾の写真
たくさんの葉とたくさんの羽
たくさんの木の実があったりする
手紙はどうやって届くのか
自分はどうやって戻るのか
わからないまま手紙をわたされ
今日も緑のなかへ入ってゆく
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