不安発生/殿岡秀秋
朝の散歩に出る
内面の温かな海から
のぼる湿気
ぼくは挨拶したのに
無言のまま傍らを通りすぎる人の
視線に冷やされて
水滴になる
細かい不安が
その核になっている
他人の一言が
気になりだすと
水滴が
上空で冷やされて
雲になる
まだ何も起きていないのに
悪い方向にいく展開を
想像するだけで
水滴はどんどん
まきあげられ
雲は巨大化して
風が渦を巻く
そうして
悪い結果になったことも
僅かにあった
しかしほとんど何も起こらなかった
確かな前兆が視えるまでは
それについて考えない方が
こころが安らだ
渦を巻く風と
つみ重なった雲が通り過ぎたあとの
空の下を歩いていく
相手が応えなくても
人とあったら
微笑みながら挨拶する
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