「堕る子」/宇野康平
 
北方の風で洗面台の雌蜘蛛が咳をして死んだ頃、

南方で濡れた子を抱いて女は震えていた。

ただ、たどりついた波が水平線の先に

戻る子の影を見つめてた。

雨が止む頃、

親と同じ形をした子蜘蛛は諦めず亡骸に

餌を求めていた。



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