パレット/山部 佳
 
厄介者でも追い払うように
実家の古びた家を売った

あれこれと
遺品を整理したら
私に、ひと箱のダンボールが残った

よくまあ、父は
こんなものまで取っておいたものだ
妹と二人で笑いながら
懐かしさに胸を詰まらせた

古いパレットを
真っ白な洗面台の上で、そっと開いたら
乾いた絵の具が、ぱらぱらと
思い出を粉にして、降っていく

水に溶けて、思い出が広がって
暗い排水口へ、吸い込まれてしまった
ぽたりと落ちた
一滴の血に混ざって、鮮やかに

蛇口を閉じると
洗面台は、何事もなかったかのように
蛍光灯に、白々と
夜を強調して、光っていた

居間のほうから
明日と、その先の未来が
私を呼んでいた
取り立てて用事もないのに

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