「百年の孤独」/宇野康平
 

夢で、産卵を終えて泣いていたコオロギは百年前に死んだ
先祖の為に命尽きるまで泣くのでした。

百年後のコオロギはたった今死んだコオロギのために泣く
のです。

布団も敷かず床に寝そべる私は、人の為に泣いたのはいつ
だっただろうか。

私が死んだ百年後、泣いている人はきっといないことに気
づいた私は私のために胸を押さえながら泣くのでした。
戻る   Point(0)