◆ Terence T D'arby best selection ◆/鈴木妙
 
厄介だと思うんだけど」
「厄介? そっか」
「あ」
「なに?」
「ひさしぶり」
「そうねー」
 茜がこちらを振り返りほとんど地団太と言ってかまわないスキップで近づいてきた。ナチュラルブラウンのポニーテールが左右に振り子するのとは逆に上下運動を繰り返した顔をこちらに寄せる。
「ほら、このように」
「え、なに?」
 と醒めた気持ちであいづちをを打ってみる。
「本物ではないからといって奇矯な行動を採れば人の目を引きます。じゅうぶんに留意してください」
 彼女の斜め後方で私鉄バスを待つ行列のうち、中年のサラリーマンと幼い男の子がこちらをけげんそうに眺めていた。他の人たちは本を眺めたり
[次のページ]
戻る   Point(0)