リリィ/イグチユウイチ
 
スピードスターが見る夢は、
進化した 銀色のハイウェイなんかじゃなく、
トウモロコシ畑を貫いて、地平線まで続く スーパーストレート。

時速180マイルで、落ち葉の紅を思い出す。
墓場のように静まった丘は 40年前と同じ 秋の夕暮れで、
細く 薄く 教会の上に棚引く 雲の彼方を眺めては、
また 世界の果てを思った。


スピードスターが見る夢は、
季節を告げる北風に 揺れる白い花。

この両手から こぼれた百合が、地に落ちるまでの 一瞬を、
とても とても 長く感じた。
百合の花は 冷たい匂いがした。
その花弁に 涙のように留まった滴を、美しいと思った。
暮れかけ
[次のページ]
戻る   Point(1)