ひとつ 夜迷/木立 悟
 




伽の無香が音を鎮め
光の皺が
あたたかな色を奪い
さらにさらに喉は渇く


小さな小さな氷河の夜が
常に足元にまとわりつき
骨の空洞を羽に満たす
震えを震えに重ねながら


街のむこうの
幽霊の街
街より巨きな
歌をなぞる


風が風を描き
透明になり
夜を夜に映しては
わずかなはざまを呼吸している


雨の窓の地図
変わるもののなか変わらぬもの
何も見えぬまま
闇へ闇へひらかれるもの


首を廻し
どこも見ずに
夜はすぎる
羅睺を喰らう


動かぬ大砲
口笛と廃屋
ただ一言を訊けずに迷う
三日月の下の人見知りの夏


動きつづける双つの夜の
わずかに重なる色のほうへ
街も街の幽霊も
背を向けながらゆらめいている




























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