緑のうた/木立 悟
 



曇空が緑にとどいて
海を見せてゆく
緑は
しあわせになる



船が船を呼んでいる
砂浜と鉄路のむこうに
声にかがやく枯れ野があり
波をこがねに照らしている


樹が風車に重なって
空へ飛びたつようにはばたく
草に覆われた道が幾つも揺れ
さざめく影と輪唱する


花はうすく野に染まり
葉の陰
空に散る影は
わずかに暗い銀になる
波の上もまた波のように
浮き沈む鏡の午後になる



ここからは
雪はとても速い生きもの
あなたにはどう見えますか
どんな季節が来ても
土のにおいのする
あなたの居る場所からは



手は傷つき治り傷ついて
それでもゆっくりのばされてゆく
手は空から降りつづけ
手は地から昇りつづけて
結ばれる手も 結ばれぬ手も
声と光になってゆく



曇に染まる手が地をめぐり
風に染まり
波に染まり
緑にとどき


緑は
しあわせになる









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