発芽/山人
神々が会議をするまでもないだろうが、俺は今、このような風体で不具合な体をのさばらせ、あんぐりと口を開けている。
すでに溜息などという日常の鬱積ですら蜘蛛の餌となり、鎌鼬に食われたような傷痕を平易な目で受け入れようとしている。
日常はひび割れ、その裂け目から滲み出た汁を舌でこそぐように舐め取る。
すでに日々を制御することもできず、不具合に支配されている。
狂っていることに気付かない、正常な活動がすでに狂っている、ということに気付かないまま、俺はすでに狂ってしまっていた。
狂気は限界を超えたときのみに存在するのではなく、日々の何気ない思考から徐々に逸脱を開始し、知らないうちに脳内に巣窟を形成し、正常な思考を食い殺してゆく。
アクシデント、と呼ばれる神々が施した現象。
瞬時に伐倒された大木のように、時間は削除され、切られる。
激しく陽光は地に乱射し、鳴りを潜めていた種子をつぶやかせる。
埋め込まれた闇の中から繰り出される、懐かしい音。
土の中の目の無い虫たちが寄り添ってくる。
その音を今、俺は、懐かしく感じている。
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