陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
伸び、素早くナリを掴みだした。太郎は、それを目にも留まらぬ早業で口に放り込み、目を白黒させながら紅茶で流し込んだ。
 北は、太郎が指さした方を見て、しばらくの間、美人を探すことに神経を集中させていたが、そんな美人がこの山の中にいるわけもなかった。
「守田さん、美人いませんね」
(いるわけないじゃん、こんな山ん中に、アホかこいつは)
「残念だったなぁ。もう森の中に入ったんだろな、きっと」
「そうですね。残念です、僕」
「北さぁ〜、お前今まで人に騙されたことねぇだろ?」
「はぁ」
「お前のレーション、少し減ってねぇ?」
「いいや、減ってないようですけど」
(う〜ん、疑うことを知らな
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