陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
山岳部ここですってばー」、そう何度も何度も絶叫していたのに全く気づかなかったのだった。
 どうにかこうにか、山岳部の部室に辿り着いた太郎は、早速、そのホームレスに訊ねた。
「おじさん、ここに住んでるホームレス?」
「は?」
「だから、ホームレスでしょ、おじさん」
「へ?」
「う〜ん、耳、遠いんだね。可哀相に。栄養のある物めったに食えねぇからそうなったんだ。うんうん」
「あのう、僕は、ホームレスじゃありません。山岳部の部長をしている藤間(とうま)といいます。医学部四回生です」
「えっ、ト、トンマ?」
「いや、トンマじゃなくて、藤間ですっ! 藤に間と書いて藤間」
「ホームレスのトン
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