陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
してそれが君の一番ふさわしい姿だ、と
僕は信じる。歩こう、登ろう、君の後に僕はいるはずだ。君の山行の邪魔をしないくらい
の距離を保って。
 僕は、働くという行為とは無縁の人間だ。自然の中で生きてゆこうと思う。

 いつもとかなりトーンの異なるこの手紙を受け取った陽子は、ふうーっ、と大きなため息をついた。太郎が何かもっともらしいことを、もっともらしく考え始めるとろくなことにはならない。しかも今回は、僕だの君だの解き放たれた小鳥だの鳥肌感満載の言葉が乱立してるし、極めてヤバイ兆候だ。これまでの豊富な経験から陽子はそう判断した。
 この手紙を一言でまとめると、要するに「俺、働きたくないもんね
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