陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 
りの海がそこにあった。その海は、二人が慣れ親しんだあっけらかんとしたふる里の海とは明らかに異なり、陰鬱で暗い鉛のような海だった。その鉛の海が大きな白い波を立てて砂丘に押し寄せている。
 陽子が白いコンバースを脱いで裸足になったのを見て、太郎も黒いコンベースを脱いで裸足になった。太郎の靴はいわゆるマガイモノであったのだが、太郎はそれが本物のコンバースだと固く固く信じていた。
 二人は自分たちの靴を砂丘に置いた。
 陽子の白いコンバースと太郎の黒いコンベースが、本物とマガイモノの違いはあるにせよ、仲良く並んで海を見ていた。
「これ、写真に撮って太郎」
「自分で撮りゃいいじゃん」
「なに・・
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