陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
 

「おいしかったね、太郎」
「うん、うまかった」
「またいつか来ようね」
「うん、来よう」
 ビール二杯を飲んで目の縁がほんのり赤くなった陽子は、何だかとっても色っぽく太郎には感じられ、返事も上の空になっていた。
 食事も終わり、ホテルに急ぐ太郎に、陽子は、「もっとゆっくり行こうよ太郎」そう声をかけ、倉敷の町並みを眺めながらゆっくり歩いていた。(ええい、もう!)太郎はそう舌打ちしながら思ったが、口に出すわけにはいかなかった。
 ビジネスホテル「KURASHIKI」は、「プロムナード」から歩いて丁度十分の所にあった。
 瀟洒な白い建物を見た太郎は、さぁ! と気合いを入れた。太郎が受付に
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