陽子のベクトルは太郎を指向するのか/草野大悟2
ゴヤは俺の大好きな画家の一人です。
去年の八月、せっかくのムフフ絶好チャンスを逃した太郎は、今度こそ、との決意を込めて返事を書いた。陽子と太郎、大学三年、もうすぐ四年になる前の冬のことである。
この頃になると、例の「われわれワァ〜」達は影も形も見えなくなり、キャンパスは平穏な日常を取り戻していた。世の中も、まるでハシカが走り抜けた後のような、なんとなく気だるい空気を漂わせながらも、なんとか平穏な状態に戻ったように見えた。
陽子から『ゴヤ展』へのムフフ案内を受けたその日、太郎は何を血迷ったのか、K大の美術部『審美会』に入部した。
彼の一連の作品らしい
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