輪っかのついたレミング/nemaru
 

一つ目の
巨人は
あくびをして
靴を履いた

今日は崖当番の日
可動式の崖の幅を調整する
昨日は鹿が三匹渡り損なって
谷底に転落
記憶は失ったものの
今日も元気に草を食んでいるらしい

藁葺きの制御室
新聞記事を読み終えて
一つ目の巨人は
今日の幅について考える

あいつは落とすのが好きだからな
俺は違う
飛べない崖は
ただの崖だ

揮発油

蝸牛

水筒

風媒

三本指でごりごりと頭をかきながら
飛べた時の気持ちよさを
満月に照らされた
伸びきった鹿の
陶酔した
誇らしげな身体を
スローモーションで
想像しながら
巨人は不器用な手つきで
ハンドルを回す



頭に輪っかのついた
レミングなら
俺の隣で寝てるよ

誤解は解けたようだけど
憔悴しきっている

今だけは
もう少しだけ
寝かせてやってくれないか

明日からは
もっと
むごたらしく
剥ぎとられていくだろうから
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