輪っかのついたレミング/nemaru
一つ目の
巨人は
あくびをして
靴を履いた
今日は崖当番の日
可動式の崖の幅を調整する
昨日は鹿が三匹渡り損なって
谷底に転落
記憶は失ったものの
今日も元気に草を食んでいるらしい
藁葺きの制御室
新聞記事を読み終えて
一つ目の巨人は
今日の幅について考える
あいつは落とすのが好きだからな
俺は違う
飛べない崖は
ただの崖だ
揮発油
蝸牛
水筒
風媒
三本指でごりごりと頭をかきながら
飛べた時の気持ちよさを
満月に照らされた
伸びきった鹿の
陶酔した
誇らしげな身体を
スローモーションで
想像しながら
巨人は不器用な手つきで
ハンドルを回す
*
頭に輪っかのついた
レミングなら
俺の隣で寝てるよ
誤解は解けたようだけど
憔悴しきっている
今だけは
もう少しだけ
寝かせてやってくれないか
明日からは
もっと
むごたらしく
剥ぎとられていくだろうから
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