「忠実な胃と悲しき黒人」/宇野康平
 
ハンバーガーを三つ頼んで最後の一個を
半分で残したので包み紙にくるんで溢れ
そうな分別できないゴミ箱に真顔で押し
込んでいた。

テレビでこわいウィルスで黒人がいっぱ
い死んでいたときに通りで少女がお遊戯
会で踊る振り付けをぎこちなく練習して
その横で少年がバットの素振りをする。

その光景は背後に死んだ黒人の葬式の行
列とはなんの関係がない。私はパンと肉
とチーズとソースが喉をずるりと通った
後、胃はきりきりとしながら忠実にモノ
を溶かしている。

返信し忘れたメールが溜まっている。後
ろからくるトラックはライトを点滅させ
て白黒白白黒白黒白白黒白白と処置の遅
れた黒人の亡骸を積み上げた山を悲しむ
人の存在しない世界であった。

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