亀の教え/まーつん
樹木が差し出す
無言の優しさを知りたければ
一枚の葉を
手にとってみなさい、と
亀はそう言って、ウインクした
僕が驚いて瞬きすると
その姿は掻き消え
ただ、
潮風に、僅かずつ
形を崩していく
小さな砂の盛り上がりが
あるだけだった
後刻、
社会へ立ち戻り
人の波にのまれると
僕は、人がわからなくなった
街の通りを埋め尽くす
沢山の顔
見分けがつかない
敵意や無関心、好奇の目が
表情のない仮面の上にきらめく
僕は、
亀の教えを思い出しながら
隣人の扉をノックした
そして、
出てきたのが君だ
海を知るために
拾い上げた、一滴の水
それが
君だった
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