『うたごえ』/あおい満月
と
数十秒で市ヶ谷駅の
あの釣り堀が見える
女がひとり立っている
顔は見えない
ただ、爪だけが
燃えているかのように
光っている
**
今まで
きいたことない
美しいうたごえ
にみちびかれて
朝、目をさました。
声のする方へ
太陽の光さす
水面へと昇っていく
風に凪ぐ髪が見える
夜は黒いのに
朝は透き通る湖色をしている
赤い爪は生まれたての
桃色になっていて
手をふっている。
(迎えにきてくれた)
彼はそう思って
水面からからだをだし岸に上る
おんなの爪に
舌が触れた瞬間
蛇は、
黒い月の色を持つ
瞳の男になる。
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