使 者/塔野夏子
 
使者は訪れてくる
静かに深い瞳で訪れてくる
彼が何処から来たのか
何を告げに来たのか知らない
彼も何も語らない
だが何故か私は知っている
彼が使者であることを
彼が語らぬことのうちにこそ
彼が告げるべきことが
湛えられているのだと

そして私は気づいている
彼はいくたびもすでに
訪れてきていると
(夢のうちに うつつのうちに)
そのたびごとに 私は
その来訪に気づいたり 気づかなかったり
あるいは気づかぬふりをしてきたのだ

ただいずれにせよ
訪れてくるたびごとに
何も語りはしないけれど
彼はまぎれもなく使者である
今も彼は 静かに深い瞳をして
私の目の前に 佇んでいる



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