風の彫刻/まーつん
 
 手を付けないでおこう
 自分という作品に

 決めつけないでおけば
 何にでもなれるだけの、柔らかさが
 人の内側には、まだ残っている

 手を付けないでおこう
 描きかけた自画像に

 仕上げるにはまだ早い
 絵筆を一度置いて
 カンバスを風にあてる
 窓から招き入れる、空の息に

 しかし、
 嵐の匂いを嗅ぎ取って
 私たちは、部屋を閉め切る

 無数の戸口の前で
 足踏みをする
 沢山の風

 いずれ
 ドアを押し破り
 アトリエに入ってくる

 床は剥き出しのコンクリ
 降り積もった埃と、鼠の糞を
 宙に巻き上げながら

 風
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