ひとつ 辿夜/木立 悟
雨の光が近づいている
屋根を何かが通りすぎる
動かない空気のなか
かけらが降り
消えてゆく
灰が灰を縫っている
ひとつのなかのふたつの目
花の生まれる瞬を見ている
雨が雨を連れてくる
音の無い径 手を引いてくる
誰もいないはずのほうから
「忘れていた」と声がした
怖ろしくてそちらを向くことができず
反対側を向くと
もう雨が降りはじめていた
遠すぎる場所から陽が現われ
雨のなかを降りてゆく
昇るものはない かがやきはない
ただ片目のなかに
咲いてゆくしずく
途切れ途切れの花の径を
変わり
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