夏の蟲/Giton
の執拗な小言を招来した。贅沢だと言うのだ。翌日ぼくは父の巨きな弁当箱を借り、ぎっしりと蝗を詰めて登校した。まず教師に皆の見ている前で数疋咀嚼させ、級友に一疋ずつ配った。脚も眼も触角もそのままの真っ黒い虫を。ああ、蝗わが友よ‥
夏といえばユスリカ。蚊柱を知らない子が多くなった。今でも夏山に行けば、蚊柱の迷惑を蒙らない日はない。
ユスリカの幼虫は蠕蟲舞手。幼虫のほうは大人も知らない。田の泥から尻だけ出してゆらゆらゆれている虫は、みみずかボウフラに思われている。
田んぼに囲まれた家では、電灯めざしてレミングのように集まる死骸を、一夏に何回かは掃き出さなければならない。それはとてもわずらわしい‥そしてすこし悲しい。
戻る 編 削 Point(3)