空白の館/アラガイs
 

廻廊を二つもやり過ごすと以前の記憶は戻ってこなかった 。奥まった待合室には先着が何人か居て、そのうちの何人かは連れ添いの家族のようだ。しかし誰が患者で誰がそうでないのか、わたしには特に気にはならなかった。
どんな建物にも意味はあるのだろう。この新しく建てられた建物の壁が白いのは偶然ではない当然なことだ。
しばらくすると、すぐ脇の扉が開き中から医師らしき声が外に響き、出てきたのは前屈みに杖をついた老婆のように腰の大きく割れた白髪斑な中年の女性だった。わからないのは両脇から家族に支えられ歩いていく途中、その女性の眼が何処を見て通り過ぎたのかをわたしは見逃してしまったことだった。
待合室の斜め
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