散文 【 緑病 】/泡沫恋歌
 
確実に『打たれ強い人間』へとは進化している筈である。
三年後に私はついに会社を辞めて、東京へと飛び出していった。
その途端、まるで憑きものが落ちたように緑色に興味を示さなくなってしまった。そして緑一色は悪趣味だと気付いて、私の身の周りから緑色はどんどん駆逐されていったのだ。
現在、草や木以外で緑色を美しいと感じることはあまりなくなった。
そういえば、ある時、街で全身緑色の老婦人を見たことがあったが、決してセンス良くなかった。痛々しいほどの緑尽くしに、この人は『心が病んで……』そうだなあという印象を持った。たぶん、当時の緑色の自分も気味の悪い病人にしか見えなかったことだろう。
何か一点に強く拘るということは、何かから逃れたい気持ちの表れだったのだろうか。[緑病]だった自分を、今の自分が冷静に分析してみると思い当たることも多々ある。
あれは自分の中で[緑病]と呼ぶべき、不思議な現象だった。



                               2014/07/21  

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