夏の歌III_朝/藤原絵理子
 

夢の続きに揺蕩いながら 目を凝らした
鶏小屋の薄暗がりに 白い卵を探した
ゆるやかな夏の朝に 竈の煙は薄らいで
元気なお釜は 薪の爆ぜる音に合わせて


谷を抜ける風は 川面に小魚を追って
揺れる青田波の向こうに 祖父の麦藁帽
見上げた斜面の畑に 祖母の白い農婦帽
あたしの髪は風に靡いて 夏の香りに染まった


村の夏には ほんとうの暮らしが
飾ることのない 喜びと悲しみが
包まれていた きっとあれが ほんとうのあたし


合歓の花は凝然っと まだ夢を見ていた
青い柿の実は朝露に まだ見ぬ秋を夢想した
薄青い煙は 明るく光る空へ 夏の朝に

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