たったひとつ/千波 一也
大きなゴールへつながる無数のうちの
たったひとつの道標
電線の上で
羽を休める一羽の鳥
その下で交わされた約束のこと
描いてみせた夢のこと
引き継ぎたいと思った物語のこと
例えわたしが忘れても
その鳥だけは忘れずにいるかも知れない
たったひとつの証書
のように
風に洗われるようにして
わたしから離れる
汗も涙も溜め息も
まったく同じ成分では出来ていないから
まったく同じ名前でなんか
呼べやしないのに
つい、呼んでしまう
汗と涙と溜め息と
たったひとつの水
なのに
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